株価や為替を見る前に、同じ国の2年・10年・30年国債利回りを比べると、短期側と長期側の金融環境を一つの期間構造として確認できます。 タイトルの「約8割」は、Bettermentの2024年調査で、401(k)以外の投資も持つ米国回答者1,200人のうち78%が金利に注意を払うと回答したことを指します。1 回答期間は2024年3月27日から4月3日で、ここでいう金利は一般的な金利であり、国債利回りのチャートを見ている人の割合ではありません。1 ここで見る期間構造は、単一の数字ではなく、国債利回りと満期までの年数(年限)の並びです。 まず米国の2年と10年の差を起点に、30年との差も含めて月平均の動きを読みます。
2年・10年・30年金利から読み取れる情報
国債利回りは、国債の市場価格などから算出される年率の利回りで、ここでは利回り(%)として表示します。2 イールドカーブは、残存期間を横軸、利回りを縦軸にして、異なる年限の利回りを並べたものです。3 2年は短期側の代表で、中央銀行が決める短期金利(政策金利)への市場の期待を含み得る年限です。4 2年利回りには期間プレミアムなども含み得るため、政策金利の予測値ではありません。5 10年と30年は、将来の短期金利への期待と期間プレミアムなど、複数の要因が混ざる長期側の年限です。5 2年、10年、30年の差を同じ国の中で比べることで、単一の原因を決めずに期間構造の変化を読めます。
米国の利回りの変化を年限別に追う
米国の図は、米財務省が公表する2年・10年・30年の公式日次系列を、2006年3月から2026年7月まで月平均にしたものです。2 月平均は、各月に存在する日次の利回り(%)を単純に平均した値です。 休場日は値を作らず、前後の値による補間もしていません。 同じ図の3本は、2年、10年、30年の順に並ぶ米国の系列です。
- 2年
- 10年
- 30年
米国の月平均では、10年−2年の差が負になる逆イールドの月があるか、30年−10年の差がどう動くかを確認します。
米国の月ごとのイールドカーブを比べる
次の図は、米国の2年・10年・30年を月ごとに選び、選んだ月と同じ月の過去5年を比べるためのイールドカーブです。 スライダーで月を動かすと、選んだ月を基準に年限ごとの利回りとカーブの形を確認できます。 ここでは10年利回りから2年利回りを引く「10年−2年」と、30年利回りから10年利回りを引く「30年−10年」を、%ポイントで比べます。 米国・日本の月次図はいずれも2年・10年・30年の3点だけを結び、中間の年限は推定していません。
- 5年前(2021/07)
- 4年前(2022/07)
- 3年前(2023/07)
- 2年前(2024/07)
- 1年前(2025/07)
- 選択月(2026/07)
米国では、長短金利差の逆転が景気後退に先行した事例があります。6 ただし、ニューヨーク連銀などが示す12か月先の景気後退確率は主に10年−3か月の差を使うモデルで、この記事の10年−2年の差や株価下落の時期を保証するものではありません。6 したがって、逆イールドが生じたら1年後に株価が下落すると断定せず、景気、企業利益、金融政策なども合わせて確認します。6
日本の利回りの変化を年限別に追う
次のグラフは、日本財務省が公表する2年・10年・30年の公式日次名目利回りを、同じ2006年3月から2026年7月まで月平均にしたものです。2 月平均は、各月に存在する日次の利回り(%)の単純平均で、休場日の値を補間していません。 日本の2年、10年、30年を同じ図で見ますが、米国の利回りとは別の系列です。 日本財務省の主要年限利回りは、流通市場の実勢価格から形成したイールドカーブをもとに算出される半年複利ベースの値です。2 日銀の高田審議委員は講演で、10年国債利回りを長期金利の指標として扱い、政策金利との差には短期金利への期待と金利リスクのプレミアムが含まれ得ると説明しています。7 同講演では、国債買入れの変化、市場への供給、金融機関の投資需要、超長期国債への需要も論じられています。7
- 2年
- 10年
- 30年
日本の月平均では、10年−2年と30年−10年の%ポイントがどの時期に広がったか、または縮まったかを米国とは別の系列として読みます。
日本の月ごとのイールドカーブを比べる
次の図も月単位で動かし、選んだ月と同じ月の過去5年を比べます。 この図で読めるのは、選択した月とその月の過去5年における日本の2年・10年・30年です。
- 5年前(2021/07)
- 4年前(2022/07)
- 3年前(2023/07)
- 2年前(2024/07)
- 1年前(2025/07)
- 選択月(2026/07)
図の範囲外にある公式資料の事例
次の事例は、2006年3月以降の2年・10年・30年を表示するこの図とは、年限または期間が異なる歴史的な参考情報です。 日本では、2019年の日銀資料が、5年金利が2年金利を下回る逆イールド形状が続いた時期を記録しています。8 この事例は短期から中期の年限を扱っており、図で見る2年−10年の差や米国の景気後退シグナルと同じ意味だとは限りません。8 バブル期について日銀資料は、10年国債利回りが1990年にピークを付け、日経平均が1989年のピーク後に下落基調へ入ったと説明しています。9 この二つの時系列は重なる部分がありますが、利回りだけで株価下落の原因だったとは判断できません。9
金利と株価は別の情報も合わせて読む
金利上昇は、将来利益を現在価値へ直す割引率や企業の借入コストを通じて、株価の重しになり得ます。10 企業利益の見通し、物価、実質金利、リスクプレミアムなども同時に動くため、金利と株価の方向は一つに決まりません。11 米国と日本は通貨、物価、政策、国債市場の需給が異なるため、同じ利回りの数字を危険度として横並びにはしません。11 国債利回りが何%になれば危険という普遍的な閾値もなく、利回りの水準だけで株価の方向や危険度は決まりません。11
米国の月平均245か月を数えると、10年利回りが4.0%以上5.0%未満だったのは53か月(21.6%)、5.0%以上だったのは5か月(2.0%)です。2 30年利回りでは、4.0%以上5.0%未満が85か月(34.7%)、5.0%以上が8か月(3.3%)でした。2 この分布を使うなら、10年が4%台に入ったときは株式の割引率を、30年が5%前後に入ったときは長期借入環境を意識するきっかけになります。10 ただし、4%や5%はこの期間の分布から置いた注意の目安であって、普遍的な危険ラインではありません。2 水準だけでなく、1年前からの上昇幅と10年−2年、30年−10年の差も同時に確認したほうが良いでしょう。
年限差と逆イールドは観察にとどめる
ここまで見た10年−2年の差が正なら10年の利回りが2年を上回り、差が負なら短期側の利回りが長期側を上回る逆イールドです。 FRBが逆転は景気後退を引き起こすものではないと説明している対象は、近い将来の短期金利経路に近いnear-term forward spreadです。4 10年−2年はそれとは異なる長期スプレッドで、複数の要因を含むため予測力が弱まり得ると説明されています。4 したがって、10年−2年の符号だけから景気後退、株価の方向、売買の判断を断定しません。
参考資料
リンク先は2026年8月29日に確認しました。
- Betterment 2024 Retail Investor Survey — 米国の個人投資家1,200人の調査対象、調査時期、金利への注意を払う78%という集計。
- 米財務省 Daily Treasury Par Yield Curve Rates — 2年・10年・30年の日次par yield curveと公式データ。
- 米財務省 Treasury Interest Rates FAQ — constant maturityと特定銘柄の違い、利回りの年率表示。
- 日本財務省「国債金利情報」 — 主要年限の公式日次利回り。
- 日本財務省「公表している金利はどのようなものですか」 — 流通市場の実勢価格から算出する主要年限の最終利回り。
- 日本財務省「イールドカーブとは何ですか」 — 残存期間と利回りの関係としての期間構造。
- FRB「(Don’t Fear) The Yield Curve」 — 短期・長期スプレッドと逆イールドの読み方の限界。
- FRB Three-Factor Nominal Term Structure Model — 期待短期金利と期間プレミアムの考え方。
- 日本銀行「Economic Activity, Prices, and Monetary Policy in Japan」 — 高田審議委員講演における日本の長期金利、期間スプレッド、国債需給の説明。
脚注
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Betterment 2024 Retail Investor SurveyのPDF p.5には「more than three quarters of investors (78%) said they pay attention to rates.」とあり、p.25の方法欄には、Sago Groupが2024年3月27日から4月3日に、401(k)以外の投資も持つ米国回答者1,200人を対象にオンライン調査を行ったと記載されています。PDFは78%に対応する逐語的な設問文を掲載していないため、本文では調査報告の射程を「金利への注意」と表現しています。 ↩ ↩2
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米国の系列は米財務省 Daily Treasury Par Yield Curve Ratesのpar yield curveで、各年限はconstant maturity(CMT)として特定の1銘柄の残存利回りとは異なります。米財務省 Treasury Interest Rates FAQは年率表示とconstant maturityの定義を説明しています。日本の系列は日本財務省「国債金利情報」の主要年限利回りで、公表している金利の説明にある流通市場の実勢価格から算出される半年複利ベースの値です。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
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日本財務省「イールドカーブとは何ですか」を参照しました。 ↩
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FRB「(Don’t Fear) The Yield Curve」を参照しました。 ↩ ↩2 ↩3
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FRB Three-Factor Nominal Term Structure ModelとFRB Yield Curve Models and Dataを参照しました。 ↩ ↩2
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Federal Reserve「Predicting Recession Probabilities Using the Slope of the Yield Curve」、Federal Reserve Bank of New York「The Yield Curve as a Leading Indicator」、Federal Reserve「(Don’t Fear) The Yield Curve」を参照しました。 ↩ ↩2 ↩3
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日本銀行「Economic Activity, Prices, and Monetary Policy in Japan」を参照しました。 ↩ ↩2
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日本銀行「債券市場参加者会合」第9回議事要旨 p.1を参照しました。 ↩ ↩2
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日本銀行「Economic Activity, Prices, and Monetary Policy in Japan」および「最近の国債金利低下の背景について」を参照しました。 ↩ ↩2
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Federal Reserve「Monetary Policy: What Are Its Goals? How Does It Work?」、Federal Reserve「1. Asset Valuations」、日本銀行「How does monetary policy affect economic activity and prices?」を参照しました。 ↩ ↩2
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Federal Reserve「1. Asset Valuations」は、金利、将来の支払い見込み、リスクプレミアムなど複数の要因を挙げ、株式のリスクプレミアムは直接観測できないと説明しています。 ↩ ↩2 ↩3